はじめに
治験業務のアウトソースは、今や医療機器メーカーにとって当たり前の選択肢になりました。
専門知識を持つCRO(Contract Research Organization)に業務を委託することで、効率的に治験を進めることができます。
しかし、「任せたはずなのに進捗が見えない」「思ったより負担が減らない」という声も少なくありません。
その原因は、委託する前の準備と考え方にあります。
この記事では、治験業務をアウトソースする際に企業が押さえておくべき5つのポイントを、現場目線で解説します。
目的と範囲を明確にする
アウトソースを成功させる第一歩は、「何を、どこまで任せるのか」を明確にすることです。
治験には、計画立案・資料作成・進捗管理・リスク対応など多くの工程があります。
CROにすべてを一括で委託するケースもありますが、必ずしもそれが最適とは限りません。
たとえば、
スケジュール管理やリスクマネジメントは社内で継続的に把握したい
治験現場とのコミュニケーションは社内担当者が担う
といった形で、「任せる部分」と「自社で行う部分」を線引きすることが大切です。
委託先を“コスト”ではなく“パートナー”として選ぶ
CROを選定する際に、費用面だけで判断するのはリスクが高いです。
治験は長期間にわたるプロジェクトであり、途中でCROを変更するのは容易ではありません。
大切なのは、相性と信頼性です。
- 自社の医療機器領域に精通しているか
- 連絡のレスポンスが早いか
- トラブル発生時に柔軟に対応してくれるか
こうした点を見極めることで、単なる「外注先」ではなく“共に治験を進めるパートナー”を選ぶことができます。
情報共有のルールを最初に決めておく
治験の失敗事例の多くは、「報告や連絡のタイミングが曖昧だった」ことが原因です。
委託開始時に、情報共有のルールを明確にしておくことが重要です。
具体的には、
- 定例ミーティングの頻度(例:週1回/月2回)
- 進捗報告のフォーマット
- 問題発生時の連絡経路と判断フロー
これらを契約書やSOP(標準業務手順書)に記載しておくことで、後からの認識ズレを防げます。
「CROが報告してくれるはず」という曖昧な期待ではなく、仕組みで透明性を担保するのがポイントです。
社内の“治験推進担当”を明確にする
CROに業務を委託しても、治験全体の責任は企業にあります。
そのため、社内には必ず治験推進担当(CRO窓口)を置く必要があります。
この担当者は、
- CROからの報告内容を整理し、社内に共有
- スケジュールや課題の進行状況を把握
- 社内の意思決定者への報告・提案
を担います。
人数が少ないベンチャー企業の場合は、治験支援パートナーに一部業務を伴走してもらう形も効果的です。
「治験推進のハブ」を社内外で補完することで、プロジェクトの安定性が大きく高まります。
“リスク管理”を自社の文化として根づかせる
治験は想定外の出来事がつきものです。
だからこそ、リスク管理の意識を社内全体で共有することが重要です。
- 問題が発生したときに誰が判断するのか
- どの段階でCRO・PMDAに報告するのか
- 予防的に取るべき行動は何か
こうしたルールを明確にしておくと、トラブルが起きたときにも迅速に対応できます。
治験を「任せる」だけでなく、「共に管理する」視点を持つことが、長期的な成功につながります。
まとめ:委託しても“責任は治験依頼者にある”
治験業務のアウトソースは、企業の負担を減らすだけでなく、専門的な品質を確保する手段でもあります。
しかし、成功の鍵は“委託して終わり”にしないこと。
- 自社の目的と範囲を明確にする
- パートナーとしてCROを選ぶ
- 情報共有のルールを仕組み化する
- 社内推進担当を明確にする
- リスク管理を文化として定着させる
この5つを意識することで、企業が主体となり、安定した治験運営が実現できます。
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